他人の不動産を売る「他人物売買」とは?OK、NG、解除について解説

ノウハウ・豆知識
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他人物売買とは、他人が所有している売買するということです。

え、勝手に自宅を売られちゃうことがあるってこと?
って思ってしまいそうですが、もちろんそんなことはありません。

不動産における他人物売買とは多くの場合「購入のための売買契約を結んだ買主が、所有権がまだ移っていない状態で第三者に売る」という取引で、民法上認められている取引です

身近な例で例えると、店頭で在庫切れになっている物を買うのにその場で代金だけ支払って、納品はお店が商品を仕入れた後、なんてこともありますよね。

お店と仕入元の関係にもよりますが、これもお店が商品の所有権を得ていないにも関わらず顧客に販売して代金を受け取っているわけですから、言ってしまえば他人物売買です。

不動産取引では、売買契約を締結してから引渡し(所有権移転登記)までに1ヶ月から、長ければ1年近くかかる物もあるため、その間に買主が第三者に売りたくなることも当然あるでしょう。

しかし、通常の不動産を売り買いするのと全く同じ、というワケにはいかず、気を付けないといけないことや禁止されている事がいくつかあります。

登場人物
A:不動産の所有者、もともとの売主
B:Aから不動産を買う契約をする買主 兼 Cに売る新たな売主
C:最終的な買主

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■一般的な他人物売買

最も一般的な他人物売買は、転売目的で売主Aから不動産を取得する契約をした不動産業者Bが、Aから不動産を取得する(所有権の移転を受ける)までの間に自らの顧客Cに紹介し、自らを売主としてCとの売買契約を結ぶ、というケースでしょう。

他人物売買の図

このような契約は日常茶飯事、そこらじゅうで行われています。

元売主Aの立場では仮にBC間の売買契約が途中で解除になったり、そもそも売買契約の締結に至らなくとも、AB間の契約に基づき不動産の売買が行われるため、契約上の特別なリスクはないと言えます。
(強いて言うなら、その不動産に居住中であれば引越しの前に顧客の現地案内があることくらいでしょうか)

転売をする不動産業者Bの立場では、先行して販売活動を行うことで広告費の節約、銀行からの借入利息の減少などのメリットを享受できる可能性が生まれます。

また場合によっては「第三者のための契約」通称”サンタメ”にすることで、所有権をAからCに直接移転する「中間省略登記」を利用し、高額な不動産取得税や各種登記費用を節約することも可能になるため、ほぼメリットしかありません。
※中間省略とサンタメについては別の記事で解説します。

一方で買主Cの立場では、Bとの売買契約には「AB間の売買契約が解除になった場合はBC間の売買契約も連動して解除になる」という特約が入ることが普通なので、AからBへ引き渡されるまでの間は自分が本当に不動産を取得できるか分からないという不安定な状態になるになることもあります。

また、「物件居住者(賃借人等)の立ち退き完了」がAからBに不動産が引き渡される条件になっているなど、AB間の契約が履行されるハードルが高かったり、引き渡しが1年後などの長期案件になると、契約して数ヶ月待ったあげく解除になるという可能性も高まるため、AB間の売買契約書に目を通し、どのような履行条件になっているかよく理解をしておく必要があります。

■他人物売買の原則禁止

他人物売買は民法的に認められていると前述しましたが、実は宅建業法上では、不動産業者が自ら売主になる他人物売買は原則禁止されています。
宅地建物取引業法第33条の2自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限

しかし、以下の①に該当する、もしくは②③の両方に該当する場合は、宅建業者が他人物売買を合法的に行うことができる例外規定があります。

・3つの例外規定

①他人物売買の買主が宅建業者

宅建業者が売主になる他人物売買を禁止されているのは、善良な一般買主にリスクが及ばないようにするためです。

買主が宅建業者(=プロ)であれば保護されるべき一般消費者は存在しないので、他人物売買が禁止されることはありません。

②宅建業者が物件を取得するための契約が存在する

宅建業者Bが物件の所有者Aと既に売買契約を結んでいるか、確実にその物件を取得できる別の契約などが存在する場合は、Bは一般消費者Cに他人物売買をしてよい、ということです。

AB間の売買契約なしで他人物売買ができてしまうと、悪意のある宅建業者が所有者に売却の意思がない物件にも関わらず嘘をついて買主Cと契約し、代金だけ受け取り逃げてしまう、ということができてしまい危険です

そのため「AB間でこれから売買契約を結ぶ予定です」などという未確定な状態での他人物売買は禁止されており、BC間での売買契約時にはAB間の売買契約書の写しを証拠として添付するのが一般的です。

③AB間の売買契約が停止条件付でないor条件成就済み

停止条件付契約とは、定めた条件が揃って初めて契約が効力を持つ契約のことで、条件が成就するまでは例え契約書に署名捺印をしていてもその契約には効力がない、という特殊な契約です。

そのためAB間の契約が停止条件付で、その条件が成就していない段階では、BがAから不動産を買い受けられる証拠としては不十分である、という考え方です。

AB間の契約が停止条件付の契約であればただちに他人物売買が禁止されるのではなく、あくまでも条件成就前の他人物売買が禁止されている点に気を付けましょう。

■途中で契約解除になった場合について

何らかの理由でBC間での売買契約が解除になった場合は、その契約で定めた解除条件に従って解除を行うのみです。

一方で、AB間の契約が解除された場合については事情が変わってきます。

Cが他人物売買であることを知っていた場合

これが普通です。

法律用語では、事前に知っていたことを”悪意“と呼びます。

これまで書いた通り、Bは基本的には他人物売買であることをCに知らせ、その証拠としてAB間の売買契約書を添付したり、「AB間の契約が解除されたらBC間の契約も解除される」などと契約が連動する特約を入れるのが通常です。

そしてCは元から他人物売買であることを知っていた、つまり「AB間の契約が解除になれば自分が不動産を取得できなくなること」を知った上で契約をしているので、契約解除により不動産を取得できないことを理由にBやAに損害賠償などの請求をすることはできません

他人物売買において悪意の買主Cは、AB間の契約が解除されたことを理由にABに損害賠償の請求をすることはできない。

Cが他人物売買であることを知らなかった場合

知らなかったというのは“善意“と呼びます。

こんなことは普通は起きませんが、Cは契約対象の物件をBが所有していると信じて契約したにも関わらず、実際の所有者はAで、BがAから物件を取得できなくなったためにCとの契約を解除する、というケースも考えられます。

Cからすると、本来は通常通りBとの契約を履行してさえいれば不動産を取得できるはずだったのに、急にハシゴを外されて不動産を取得できなくなるわけです。
計画も狂うし、かわいそうですよね。

このような場合、善意のCはBに対して不動産を取得できなかったことへの損害賠償請求をすることができます

■他人物売買で心がけること

・連動した解除条件の設定

特に上流側(AB間の契約)が解除されたときに、BC間の契約が具体的にどうなるのかがポイントです。

AB間の契約が解除されたときBC間ではどうなるのか、Bが故意にAB間の契約を解除した場合にBC間の解除はどの解除条件を用いて解除することになるのか、金銭の返却、違約金の発生有無はどうなるのかなど、
一方がこうなったらもう一方はこうする、という具体的な取り決めと想定をしておくことが後のトラブル回避の面で非常に大切です。

・AB間の売買契約書の写しをもらう

不動産の所有者Aに本当に売却する意向があるのか、BがAから不動産を取得できる見込みがあるのかを確認する上で、AB間の契約書の写しをもらうことはほぼ必須です。

通常はBC間の契約書の添付書類としてもらい内容の説明を受けますが、もし提出を拒むような宅建業者がいたら怪しいので取引を考え直すと同時に、その業者が所属する宅建協会や行政に名指しで相談してみてもいいかもしれません。

・他人物売買であることをCに伝えておく

もしAB間の売買契約が存在していたとしても、Bが自分が所有者であり売主であるという立ち位置でCと契約をしてしまうと、AB間の契約が解除になった際にCに損害賠償責任を負うことになります。

それを抜きにしても、Cの人生設計に影響を与えかねない行為なので、BはCに紹介をする時点でちゃんと伝えてあげるのが信義則上の正解ではないでしょうか。

・引渡し前に販売活動を行うことをAに伝えておく

これも不要なトラブルを避けるためにはほぼ必須でしょう。

Aが居住中ならなおさら、Bと契約した途端に知らない人が家の外からジロジロ見てくるようになった、なんてことになったら気持ち悪いでしょうし、周辺住民に売却したことが知られるなどAのプライバシーにも関わります。

また、Bは転売による利益を得るためにAと契約を結んでいることがほとんどのため、当然利益を上乗せした金額で販売活動をします。

Aの立場に立てば、その金額で売れる見込みがあるんだったらBに売らなかった!
Bに騙されて不当に安く売らされた!
と思うかもしれませんし、
実際にとある不動産業者は元売主集団と大トラブルになったこともあります。

言った言わないにならないよう、売買契約書の特約や重要事項説明書に「転売して利益を得るために販売活動をすること」などを明文化し、了承を得ておくこともトラブル回避のために有効でしょう。

おまけ:他人物は広告OK?

SUUMO、at homeなどのいわゆる不動産ポータルサイトに物件を掲載したり、広告チラシを配布したりすることを「広告する」と言いますが、
自らを売主とした他人物の広告自体は禁止されていません
※所有者に売却意思がない不動産を広告することはもちろん禁止されています。

しかし実際のところ、これまで解説してきたABCの他人物売買において、BがAとの契約後ただちに広告することはほぼありません。

なぜなら、仮にBが買取金額よりも大幅に高い金額で再販売していることを知れば、AはBとの契約を手付解約してでも一般向けに売却をし直した方が得だと考えるかもしれませんし、それでなくても損をした気になりますよね。

また、実際にたまにあることで、契約後にAの親族などから「安く売らされた!契約を無効にしろ!」などとクレームが入る可能性もあります。

不要なトラブルのもとなので、他人物売買においては、Bにとって所有権が移転する前から広告を出すことはデメリットが大きいのです。

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