不動産の売買契約には、売主買主ともに契約を解約する権利が付きます。
解除条項については契約前に書面で説明を受けますが、初めて聞く方は一度で理解しづらい部分でもあります。
今回は解除条項を噛み砕いて、契約時に払った手付金や仲介手数料がどうなるかについて解説します。
(共通)一般的な解除条項
手付解除
- 解除期日
契約書の手付解除期日まで(通常1か月ほど。極端に短い場合は相談すべき)
or 一方が契約の履行に着手するまでのどちらか。 - 解除条件
なし - 手付金
買主から解除:支払い済みの手付金を放棄
売主から解除:受け取った手付金+手付金と同額を買主に支払う - 支払い済みの仲介手数料
放棄(もし契約時に支払っていない場合は手数料の一部を請求される可能性あり) - 解説
事情が変わった、他にもっといい物件を見つけたなどの個人的な理由で解除する場合に使います。
上記の通り手付金は”解約料”としての位置づけになっているため、一般的な手付金額(売買代金の5~10%)を下回る少額手付では売主が契約をしてくれないこともありますし、逆に手付金額を多く用意すれば「この人は手付解除の可能性が低い」とプラスに判断してもらえることにも繋がります。
融資利用特約による解除(ローン解除)
- 解除期日
定められたローン解除期日まで(通常1か月程度)。 - 解除条件
ローンの本審査で減額もしくは否決されて代金の支払いが困難になった場合。 - 手付金
返還される。 - 仲介手数料
返還される。 - 解説
契約後、本審査の結果、事前に決めた借入額よりも減額になってしまったり非承認になったとき、買うことができない状況になるので契約を解除してもいい、という買主保護の特約です。
契約は白紙解約(最初から契約がなかったこと)になるので、やり取りした金銭はすべて返還されます。
あくまでも善良な買主を保護するための特約で、途中で気が変わったからと審査をやらなかったり、事前審査の時より増額をして否決されたり、契約後にローンで車を買うなどして審査に悪影響を与えた結果否決されたりと、悪意や過失でローンが承認されなかった場合には適用されず、違約になる場合もあります。
また、あくまでも解除できる権利なので、ローンが減額された分を現金で補える場合は、そのまま契約を履行できます。
引渡し前の滅失・毀損による解除
- 解除期日
引き渡し日まで。 - 解除条件
不動産が天災などで利用目的が達成できないほど損壊してしまった場合。 - 手付金
返還される。 - 仲介手数料
返還される。 - 解説
ローン解除と同じく白紙解除です。
天災などで不動産が損壊、毀損してしまった場合は、基本的には売主が修復して買主に引き渡すことになっていますが、
家屋が倒壊したり全焼したりと、修復できないもしくは一部修復できても買主の利用目的が果たせないレベルで損壊してしまった場合にはこの解除条項が適用されます。
契約違反による解除(違約解除)
- 解除期日
引き渡し日まで - 解除条件
催告をしても相手がやるべきことをやってくれない場合。 - 手付金
買主が違約:手付金などの支払い済みのお金を放棄し、更にあらかじめ決めた違約金額への不足分を追加で支払う。
(支払い済みのお金が違約金額を上回るときは差額を売主が返還する)
売主が違約:手付金を返還し、違約金を支払う。 - 仲介手数料
返還されない可能性が高い(事情や経緯によって判断が分かれます) - 解説
契約書には”債務の履行を催告して~”と書かれていますが、平たく言うと契約を進めるための約束事を守ってくれないときは期日を設けて催告をして、それでも守られない場合は違約金を払ってもらって契約解除しますという条項です。
売主の債務は、引き渡すために抵当権抹消のために動いたりと、引き渡しに向けた準備を進めること。
買主の債務は、住宅ローンの手続きを進めるなど、引き受けるための準備を進めることです。
譲渡承諾の特約による解除(借地権の場合)
- 解除期日
定められた期日まで。 - 解除条件
地主からの譲渡承諾が取れなかった場合。 - 手付金
返還される。 - 仲介手数料
返還される。 - 解説
白紙解約です。
借地権の物件は借地権者の名義変更などに地主(底地権者)の承諾が必要になりますが、その承諾が取れなかった場合は買主に引き渡せないので白紙解除になります。
契約不適合責任による解除(旧 瑕疵担保責任による解除)
- 解除期日(催告期日)
一般的には売主が個人の場合は引渡しから3カ月以内、宅建業者が売主の場合は引渡しから2年以内。 - 解除条件
売主が知っていたか否かに関わらず、契約前に説明を受けていなかった物件の瑕疵(シロアリや躯体の損壊、地中の不発弾など)があった場合や、説明を受けた内容と実際が違っている場合などで、修復や金銭で解決できず、不動産の利用目的が達成できない場合。 - 仲介手数料
既に取引が完了しているので返還されない。ただし仲介会社に落ち度があり、解除することで損害を被る場合は損害賠償請求ができる可能性がある。 - 解説
2020年の法改正で、特に売主側に厳しくなった法律です。
解除権は契約不適合責任の中の一部で、売主の責任範囲や補償についてはまた別に定められている場合もあります。
また、マンション一室の売買などでは、瑕疵により”住む”という目的が達することができなくなることがないという意味で、そもそも契約書に”補修の請求はできるが解除や損害賠償請求はできない”ということが書かれていることもあります。
なお、個人が売主の物件については合意の下で契約不適合責任を免責にすることができますが、売主が宅建業者の場合には、契約不適合責任を免責と定めて契約することは違法行為のため、特約は無効になります。
反社会的勢力の排除条項による解除
- 解除期日
直接もしくは間接的に暴力や脅迫行為などを受けた:売買代金全額支払いまでの間
それ以外:期日の定めなし(引き渡し後でも解除可能と思われる) - 解除条件
売買代金全額支払いまでに本人もしくは第三者を利用して脅迫や暴力被害を受けた。
反社団体の事務所として使われた。
名義人が反社団体の構成員だと判明した。
名義人が反社への名義貸しをしていた。
法人名義での取引で、社員や役員などに反社勢力が入っている。 - 手付金
返還される。+違約金 - 仲介手数料
仲介会社に落ち度がなければ返還されない可能性が高い。 - 解説:
暴力団などの反社会的勢力や、反社会的行為を禁止する条項です。
どの条件に当てはまっても、催告することなく一方的に契約解除し、売買代金の20%の違約金を請求することができます。
また、物件を反社の事務所や団体の活動拠点として利用したことが認められ場合には、
契約解除+20%の違約金に加えて80%の制裁金も加算されます。
その他の解除条項
買い替え特例による解除
- 解除期日
定められた期日 - 解除条件
買主が現自宅の売却を条件に購入の融資を受ける場合で、期日までに売却できなかった場合。 - 手付金
返還される。 - 仲介手数料
返還される。 - 解説
白紙解約になります。
買主の自宅売却が3ヶ月以内に売却できなければ媒介業者が買い取る、などの条件が付いている場合は発動することがないと思われる解除条項です。
売主からすると買主宅の売却状況を気にし続けないといけないなどのデメリットがありますが、金額的な条件が良いなど、逃がしたくない買主であればこの条項を付けて契約をしたりします。
第三者の為の契約の特約による解除
- 解除期日
引き渡し期日 - 解除条件
売主が買主に売るために買う物件が無事取得できない場合。 - 手付金
返還される。 - 仲介手数料
返還される。 - 解説
白紙解約になります。
通称”サンタメ”と呼ばれる契約で、AからBが物件を買い、引き渡しを受ける前にBが売主としてCに売却する契約をするときに付けられる解除条項です。
AB間の契約にも前述したような各種解除条項が存在するため、それらが発動して契約が解除になった場合は連動してBC間の契約も解約になります。
クーリングオフ(売主が宅建業者の場合)
- 解除期日
物件引き渡しかつ代金全額支払いまで。
クーリングオフについて書面で説明された日から8日経過するまでに書面で通知。 - 解除条件
・申し込みや契約場所が専任の宅建士のいる事務所や、宅建業を繰り返し行える事務所に準ずる場所以外で行った場合。
・購入申し込みや契約を、宅建業者からの申し出で買主の自宅や勤務先で行った場合。 - 手付金
返還される。 - 仲介手数料
返還される。 - 解説
クーリングオフは名前の通り、頭をCooling offする時間を設けるための制度で、不動産などの重大な契約に適用されます。
適用条件の大前提は、売主が宅建業者だった場合です。
申し込みや契約をする場所がポイントで、自宅や勤務先、説明をする人がきちんといる宅建業者の事務所などで申し込み/契約をした場合は、冷静に考える時間があったとされて、クーリングオフの対象にはなりません。
また、書面での通知では届いた届いていないのトラブルを避けるために内容証明郵便で通知するのが一般的です。
合意解約
契約の解除は罰金などを伴わずとも、売主と買主の合意があれば解除することができます。
その場合の手付金等については話し合いになります。
仲介会社への手数料も相談になりますが、契約時点で仲介会社としての仕事は一応半分果たしているため、返還請求できないことが多いかもしれません。
制限行為能力者による契約の無効/取り消し
未成年者や認知力に問題があるなどの、意思決定能力や責任能力が認められていない人物による契約は、契約後でも無条件に無効/取り消しできることになっています。
白紙解約になり、手付金や仲介手数料はすべて返還されます。
消費者契約法による解除
事実を誤認させられたり、監禁や脅迫などの違法行為により正常な意思決定が妨げられた場合の契約は、全て無効にできます。
もちろん手付金や仲介手数料は全て返還されます。
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