今回は「不動産」と「離婚」という少しセンシティブなテーマです。
離婚件数は年々増加傾向にあり、今では3組に1組が離婚するという統計も目にします。
「結婚生活は順調」と思っていても将来のことは誰にも分かりませんし、実際この仕事をしていると離婚がきっかけの売却相談は日常茶飯事です。
そんなとき、人生設計に大きな影響を及ぼすのが「不動産をいつ購入したか」というタイミングの問題です。
同じ3,000万円のマンションでも「結婚前に買った場合」と「結婚後に買った場合」とでは、離婚時の財産分与の扱いがまったく変わってくるのです。
今回は、不動産に焦点を当てつつ、財産分与の基本ルールや金融資産・動産の扱いも含めて分かりやすく解説していきます。
■法律ではどうなっているか
財産分与の基本ルール
離婚に伴い夫婦の財産を分ける制度が「財産分与」で、法律上の原則は以下の通りです。
- 分与の対象となる財産:婚姻中に夫婦が協力して築いた「共有財産」
- 分与の対象外となる財産:結婚前に築いた財産や、婚姻中に贈与や相続で得た「特有財産」
結婚生活の中で形成された財産は基本的に夫婦の共有財産として分与の対象。
反対に、独身時代から持っていた財産等は、原則として本人の物で財産分与対象外として扱われます。
ポイントは「財産がいつ、どのように形成されたのか」です。
しかしこれを根拠に「結婚前に買った家は財産分与されないんだ!」
というのは早合点です。
購入のタイミングも大事ですが、その後のローンの返済状況等によっても取り扱いが変わってきます。
■具体例:結婚前と結婚後に家を買った場合
ケース1:結婚前にマンションを購入した場合
例えば夫が結婚前に3,000万円のマンションをローンで購入し、結婚から離婚までの間にローンを1,000万円返済したとします。
この場合、
- マンションそのものは特有財産(結婚前に取得したため)
- ただし婚姻期間中のローン返済分は共有財産とみなされる
つまりマンションの価値の内「1,000万円分」については財産分与の対象となり、妻も一定割合を請求できる可能性があります。
1,000万円の返済原資は夫婦が協力して生活することで形成した資産が基になっているという理屈です。
具体的に妻はいくら請求できるのか?
【前提条件】
・購入価格3,000万円(夫の単独名義。ローンで購入)
・婚姻後の返済額:1,000万円
・婚姻期間中の年収:夫600万円/妻400万円(比率6:4)
・婚姻期間:10年
↓
妻が主張できる分与額:約200万円
1,000万円を6:4にして400万円じゃないの?
と思いそうですが、妻の年収400万円が丸々ローンの返済に充てられた(夫の特有財産に寄与した)とは考えづらいです。
普通に考えれば年収400万円のうち半分くらいは生活費や個人の娯楽に消えていて、残りが返済原資として寄与したんじゃない?
ということです。
なので夫の特有財産への実際の寄与度は「夫8:妻2」になるという具合です。
ただし!
夫婦に子がいて妻は家事や育児で家庭に貢献していた、などの事情が加味されるケースも多く、実務上は1,000万円をちょうど半分した500万円の分与が認められることも多くあるようです。
ケース2:結婚後にマンションを購入した場合
婚姻中に購入した不動産は、その名義が単独名義であっても「共有財産」として扱われます。
- 購入資金が夫の給与から発生したもので妻が専業主婦であっても、夫婦の協力によって形成されたものとみなされる
- 実務上、ローン残高や評価額を考慮して物件価値を2分の1ずつ分ける
したがって、結婚後に購入した不動産は「財産分与の対象になりやすい」と言えます。
結婚後に家を買う家庭が圧倒的多数かつ、一般家庭では離婚時に夫が数千万円の資産を保有していることは多くないため、必然的に、離婚→家を現金化して財産分与、という流れが多いのです。
その他のケース
①結婚前に購入し、結婚後にリフォームした
リフォーム費用は共有財産として考慮される可能性があるため財産分与の対象になる場合があります。
②結婚前に購入した不動産を貸して結婚後も賃料収入を得ていた
賃料収入の源泉が一方の特有財産であっても、結婚後の賃料収入は共有財産として財産分与の対象になります。
③結婚前に購入し、結婚後に売却した
売却益のうち、「婚姻期間中に増えた価値」や「ローン返済への寄与分」は財産分与の対象になります。
ケースまとめ
- 結婚前に購入 → 基本的に本人の特有財産で分与対象外。ただし婚姻期間のローン返済部分は寄与の度合いによって分与対象。
- 結婚後に購入 → 原則的に夫婦の共有財産として折半対象。
- 婚姻期間中の賃料収入→夫婦の共有財産として分与対象。
- 婚姻期間中の修繕や価値向上→修繕費用や価値向上分は寄与度によって分与対象。
■不動産以外はどうか?
有価証券や預貯金
- 結婚前から持っていた預貯金や株→「特有財産」
- 婚姻後に積み立てた預貯金や株→「共有財産」
高級時計や車などの動産
- 結婚前に購入したブランド時計 → 原則本人の「特有財産」
- 結婚後に購入した車 → 単独名義でも「共有財産」として扱われる可能性大
相続や贈与で得た財産
- 婚姻中に親から贈与された資産や相続した実家等→「特有財産」
※その財産を売却して得た資金を住宅ローンの返済に充てた場合などは扱いが複雑になります。
このように財産の分与は、財産を「いつ得たか」「どう活用したか」で財産分与の対象になるかどうかが変わります。
■結論
- 財産分与の対象になるのは、婚姻期間中に形成された「共有財産」
- 結婚前の財産や相続・贈与財産は「特有財産」として原則分与の対象外
- 結婚前に買った不動産でも、婚姻後のローン返済分は共有財産になる
- 有価証券や動産も、婚姻中に形成されたものは分与の対象
- 財産分与は法律論や机上の計算だけでなく、夫婦の協力関係や生活実態も考慮される
この記事のタイトル回収になりますが、「家は結婚前に買え」は、個人の資産防衛の観点からすると結構正しいことになります。
もちろん離婚を前提に家を買う人はいないと思いますが、それでも有事の際の知識を持っておくことは、結果的に財産を守ることや円満な離婚協議につながるのではないでしょうか。
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