家賃が振り込めない!家賃で揉めた!そんなときは「供託」を活用

トラブル
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家賃などの支払い義務がある金銭を支払い先に払わず、法務局に預ける「供託」という仕組みをご存じですか?

利用する機会は限られますが、実はそこまで縁のない仕組みではありません。

例えば、借りている賃貸のオーナーさんが亡くなると、財産保護のために預金口座が凍結されることがあります。
そうなると、毎月振込んでいた家賃がある時から理由も分からず突然振り込めなくなってしまい、以降は家賃の未納状態になってしまいます

相続人がいれば相続人から家賃の振り込み等の指示がくることが普通ですが、遺産分割協議が長引いたり、そもそも賃貸不動産を所有していること自体を相続人が知らなかったりすると、長い間オーナ側と連絡が取れず宙に浮いた状態になり、賃借人の権利が不安定な状態になってしまう可能性があります。

実際に筆者の経験では、様々な事情が重なり、所有者が亡くなってから賃借人へ報告ができるまでに約8ヶ月もかかったことがあり、賃借人はその間数ヶ月間は家賃が支払えていない状態になっていました。

そのような時に、賃料の供託をしていれば賃料支払債務を履行しているとみなされ、賃借人としての権利を胸を張って主張することができるようになるわけです。

賃料の支払い債務不履行と言われないためにも、生活の知識として供託という手段を是非知っておきましょう。

口座凍結などにより家賃が支払えなくなったからといって、何もせずに放置するのは危険です。

過去には2,3か月の家賃滞納を理由に退去通告が有効になった判例もあります。

オーナー側の事情が原因であればいきなり退去を迫られる可能性は高くないでしょうが、それでも余計なトラブルを招かないためにも家賃の供託という手段を覚えておきましょう。

家賃の供託について
賃料供託の仕組み
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■供託を利用するための3つの要件

家賃の供託を利用するためには、下記の3要件のいずれかに該当する事情が必要です。

  • 債権者(オーナー)が家賃の受領を拒否している
    オーナーとの不仲などにより家賃を受け取ってもらえない場合や、振込先口座が凍結されている場合もこれに該当することがあります。
  • 債権者が受領できない状態になっている
    現金で家賃を渡すことになっているオーナーがずっと不在になっていたり、行方不明状態になっていたりする場合です。
  • 債権者が不確定
    債権者が亡くなって相続が発生したが、相続人が未確定である場合や、債権が譲渡された(不動産が売買された)が譲渡債権について争っており真の債権者が分からない状態です。

これら特殊な状況になって初めて家賃の供託ができるようになります。

■供託の方法

供託は、契約書上の支払地(賃貸なら物件の所在地)を管轄する法務局で行える他、オンラインでも行うことができます。
※オンラインで行う場合は申請者ID、パスワード等の登録が必要になるので、不安な人は法務局の窓口で供託をするようにしましょう。

法務局の窓口で供託を申請する場合は、
・供託書の記入(窓口で配布)
・供託金(供託する賃料)
・賃貸物件の所在、地番、構造、賃料、支払日等の情報(賃貸借契約書の持参をおすすめ)
・委任状(代理人が申請する場合)

・法人の全部事項証明か代表者の資格証明書(法人が供託する場合)
が必要になります。

供託後にもらえる供託書は、供託した証明になるほか、債権者が供託金を受け取る際に必要な供託番号が記載されているため、大切に保管しましょう

地代・家賃の供託書
供託書のサンプル。右上の供託番号が重要。

■賃料の減額、増額請求時の供託

振込口座が凍結された、オーナー側と連絡が取れない、そんなとき以外にも、供託を利用するときがあります。

それが、賃料の減額、増額請求が発生したときです。

賃料の減額請求は借主側から、増額請求はオーナー側から請求することが普通ですが、請求相手が「はい分かりました」となることは少なく、折り合いがつかず係争に発展することも少なくありません。

そんなとき、家賃を支払うのに供託を利用することが有効になる場合があります。
具体的には以下のような場合です。

・オーナーからの賃料増額請求

オーナーが賃料の増額を請求してきたが、賃借人は納得がいかない。
賃借人は債務不履行にならないよう、これまでと同額の賃料を支払おうとしたが、オーナーが請求額に満たない賃料の受領を拒否してきたため、賃料が支払えなくなった。

こんな時は債権者の賃料受領拒否を理由に、従来の賃料を供託していれば、賃料支払債務を履行したとみなされ、賃借人としての権利を確保できます。

最終的に係争が決着した際には、決定した新賃料で計算した加不足分を精算することになります。

なぜオーナーが賃料の受領を拒否するのか

増額請求をしたにも関わらずこれまでと変わらない賃料を、賃料の全額として受け取ったと場合、従来の賃料で納得した=増額請求を破棄したと解釈されてしまう可能性があります。

一方で、オーナーが従来通りの賃料を、請求額に満たないが賃料の一部として受け取ったことにすると賃借人に告げた場合、賃借人としては賃料の全額を支払っていない=支払い債務の不履行、と解釈をされる可能性があるため、賃借人は了承をしないことがほとんどです。
また、賃料の一部(内金)として賃料を受け取ったことが、オーナーの賃料受領拒否に該当するとして、賃借人の供託を有効とした判例もあります。

このようなことから、賃料増額・減額請求が発生すると、オーナー側は賃料を受け取らない、という手段を選択することになるわけです。

・賃借人からの賃料減額請求

賃借人側が賃料減額請求を行ってオーナー側と争っている間、賃借人は減額した賃料ではなく、これまでと同額の賃料を支払わなければいけません
借地借家法第32条

賃借人の判断で減額した賃料のみを支払おうとしてオーナー側から受領拒否をされた場合は供託をすることができますが、この場合もやはり減額前の従来通りの賃料を供託する必要があります。

勝手に減額した賃料を支払ったり供託していると、ものの数ヶ月で債務不履行を理由に賃貸借契約の解除をされる危険が大いにあるため、減額請求中の支払いや供託は従来の賃料で行うようにしてください。

係争が決着し新賃料が確定すれば、加不足分は精算されることになります。

■供託金の受け取り方法

供託された金銭を受け取るには、「還付」と「取戻し」の2つの方法があります。

還付とは被供託者(金銭を受領する資格のある者。オーナー側)が申請し、供託された金銭を受け取ること。
取戻しとは供託事由の消滅により、供託をした者が申請して供託金を返してもらうことです。

通常は前者の還付が多いでしょう。

  • 供託物払渡請求書
    法務局窓口やホームページで入手。供託番号の記載が必要。
  • 還付を受ける権利を有することの証明
    債権者不確定を事由とした供託で、債権者が確定したことの確定判決など。
  • 印鑑証明書
    非供託者が個人で、運転免許証で本人確認ができる場合は省略可。
  • 資格証明
    請求者が法人の場合は、法人の登記事項証明書など。
  • 委任状
    個人の代理人や法人の使者が請求をする場合は、代理権を証明する有効な委任状が必要。
  • 相続関係証明書
    供託書記載の非供託者が亡くなっている場合は、戸籍、除籍、住民票など、請求者が債権の承継人であることを証明する書面が必要。

これらの書類を揃え、供託された法務局に申請をすることで、銀行振り込みまたは小切手で還付がされます。現金での還付は行えません。

また供託の経緯や個人、法人の違いなどから必要書類は大きく変わりますので、申請の前に電話などで必要書類を確認するようにしましょう。

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