反社チェックの方法、調査の範囲は?仲介業者の義務はどこまで?

コラム
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有名人や有名企業のスキャンダルなどで【反社】という言葉が世間一般に浸透して久しいと思います。

反社会的勢力を排除しようとする流れは年々強まっており、あらゆる業界で取引前の反社チェックが行われています。

それでは不動産(仲介)業者が、反社チェックをどのように、どの程度の範囲で行っているかについて解説します。

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■反社会的勢力は不動産を買えない

反社会的勢力とは、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」と定義されています。

暴力団のみならず、いわゆる半グレや詐欺師なども反社会的勢力と言えます。

以下は、不動産売買契約書や重要事項説明書に記載されている『反社会的勢力の排除条項』と呼ばれる文言です。

反社会的勢力の排除条項の文言

買主売主は、自ら(個人法人問わず)が反社会的勢力に関与していないこと、
反社会的行為(暴力や恐喝等)や反社会的活動に不動産を利用したりしないことを確約し、
違反すれば無条件解約と違約金、制裁金の支払いを約束させるというものです。

反社会的勢力に関与している個人や法人は不動産を取得すること自体が非常に難しくなっています。

違約金を取れるなら相手が反社でもいいよ』と冗談半分で言われるお客様も過去に何組かいましたが、
この手の違約金や制裁金は、払えと言って素直に払われることはほぼないようです。

そうなると制裁金を払ってほしい側と払わないもう一方との間で仲介業者は板挟みになることが容易に想像できるので、そんなリスクのある取引を避けるためにも、“なんか怪しい”と感じた当事者に対しては神経質に調査をします。

■具体的な手法

とはいえ買主様や売主様に「本当に反社じゃないですよね?」などと根掘り葉掘り聞くのは失礼極まりなく、かなり不愉快な思いをさせてしまいます。

そこで以下のような方法で反社チェックを行っています。

・身分証明書の原本確認

身分証明書の写しや写真の提出のみであれば巧妙に偽造をすることもできるため、必ず契約に先立ち本人確認書類の原本を確認し、写しを保管することになっています。

本人確認に使用される書類には以下のようなものがあります。
(全部ではなく2,3点を確認します)

【個人】

・運転免許証
・健康保険証
・パスポート
・住基カード
・年金手帳
・戸籍の附票
・印鑑証明
・在留カード
・母子手帳等

【法人】

・会社謄本
・印鑑証明
・官公庁発行書類(所在地や商号記載のもの)

・ネット検索や新聞記事の照会サービス

ネット検索、過去の新聞記事の照会サービスや反社チェックサービスを用いて名前を検索し、過去に発生した事件等への関わりについて調べます。

同姓同名がヒットすることもよくありますが、お客様の年齢や職歴、これまでの会話の内容から当人でないことが明らかになることがほとんどです。

ただし過去に何らかの事件に関与していたとしても、それが反社会的勢力と関係のないものであれば排除の必要はないでしょうから、逮捕歴があるからといって必ずしも不動産取引ができないというわけではありません

・外観と人の出入りの確認

玄関や門に複数の監視カメラがある。
停まっている車が黒塗りフルスモークのアルファード。
ナンバーがゾロ目や「9」に関わる数字。
“雰囲気のある人”が出入りしている。
表札に「~興行」など、
反社関連の施設にはそれとない特徴があったりします。

もちろんこれだけで反社と決めつけることはできませんが、怪しいと思う特徴があればより踏み込んだ調査をすることになります。

・犯罪収益移転防止法に関係する回答書

不動産取引を利用したマネーロンダリング防止のために、買主売主双方に署名してもらう回答書の作成と保管が義務付けられています。

この回答書では、
本人の住所、名前、生年月日
取引の目的)
職業
外国の重要な公的地位にあるかどうか
について確認します。

国土交通省作成の犯罪収益移転防止法の回答書
国土交通省作成の様式

■踏み込んだ調査

これまでの調査項目で「なんだか臭う」というときは、周辺住民への聞き込みや、物件近くでしばらく様子を伺ったりすることもあります。

ほとんどはここまでで白黒がつきますが、それでも疑いが晴れないもしくは”そうだ”という噂がある場合は、警察に相談し情報開示をしてもらうことも稀にあります。

警察では暴力団関係施設をデータベースにまとめてあります。

■仲介業者の調査義務はどこまであるか?

仲介業者には、物件や取引相手について十分に調査し、取引が安全かつ合法に行われるように努める信義則上の責任があります。

しかし、現代の反社は昔の映画やドラマのようなあからさまな外見をしていないことが普通で、巧妙に社会に溶け込んでいます。

法人にしても、いわゆる『ヤクザのフロント企業』などは、外見や表面上の情報だけで看破することは困難です。

だからと言って、年間何十何百ある不動産取引の一件一件で、興信所に調査を依頼したり、張り込み調査をするのはとても現実的ではありません。

実際のところ、不動産仲介会社が行う媒介業務は、あくまで安全で公正な取引のために努めることとされており、相手方の素性調査の義務までは明記されていません

そんなこともあり、過去の判例などを読み解くと、
外観や情報検索などの基礎的な調査をし、売主買主当人に対して確認を取れば不動産会社が一定の調査努力を果たしたと解されるようで、少なくとも調査不足による損害賠償請求の対象になるとは言えないようです。

ただし、客観的にあからさまに”それらしい”と疑念をいだくに足る状況にも関わらず調査をスルーして契約を締結させたとなると、仲介業者の怠慢となり一定の責任追及の対象にはなるでしょう。

また、例えば不動産会社が所有者から管理を委任されているテナントビルなどを仲介する場合、委任された不動産会社には「善管注意義務」が発生します。

「善良なる管理者として注意を払う義務」は本来所有者が負っている義務ですが、管理を委任されるという事は善管注意義務も引き継ぐという事になります。

そうなると、不動産会社は所有者からの告知のみを根拠に調査義務を果たしたとは言えないでしょうから、契約以前に踏み込んだ素性調査をする必要があることになります。

■安心できるだけの材料を揃えるのが仕事

調査義務の範囲と責任の所在という殺伐とした話になりましたが、本質に立ち返ると、仲介業者の仕事は売主買主の双方に対し「安心できる取引」を提供することです。

毎度の調査は大変と言いましたが、反社チェックにおいて疑念要素が出ることは稀です。

そんな中でもし何か引っかかることがあるようなら「法的な義務の範囲」などと言っていないで、お客様に安心してもらえるだけの材料を揃えるために、労力を惜しまずに対処するという姿勢が大切ではないでしょうか。

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