「立退き」の正当事由って具体的に何?判例も紹介

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ある時突然オーナーや不動産会社から立退きのお願いをされる。

実際にそんな経験をしたことがある人は意外に多く、不動産の売却・相続・老朽化などから立退きの話が出てくることは決して稀なことではありません。

賃貸借契約を貸主側から解除する場合には、
契約期間満了の半年以上前に「更新拒絶」や「解約の通知」を借主に提出することに加えて、
貸主がその建物や土地を必要とする正当事由が必要になります。

※正当な事由があったとしても契約を解除されたら借主は困りますから、
貸主からの賃貸借契約の解除では「立退き料」の話が出てきます

それではこの正当事由は具体的にどのようなものか、判例も交えながらご紹介します。

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■立退きの正当事由とは

立退きを請求する貸主側の正当事由として認められることが多い事由には以下のようなものがあります。

賃貸人がその建物を使用しないと困窮してしまう

例えば賃貸人の住戸が他所にあったが、その住戸が火災で焼失してしまい、貸している家以外に住む家がない、などの場合は、大いに正当性があると言えるでしょう。

また、賃借人が高齢になり介護付き老人ホームに入らざるを得ないが、入居費の捻出のために賃貸物件を売却する必要がある場合なども正当な事由になるでしょう。

賃借人の経営する会社の事務所が立退きにあい、営業活動を継続するために賃貸している物件に移転をしないといけないなども正当な事由の一つです。

建物の老朽化による修繕、建替え、解体など

建物が老朽化し、建て替えや全面的な改修をしないと危険な場合も、立派な正当事由になります。

老朽化の度合いが深刻であると判断されれば、古くてもまだ使えるんだから解約はしない!と借主が主張したとしても、借主のみならず周辺住民の安全性の観点などから、正当性が認められやすい傾向があるようです。

なお、修繕や建替えに多額の費用がかかる場合もありますので、必ずしも建替えや修繕するとは限らず、解体して更地にするということもあります。

そのため建替えや修繕後に再入居をしたくても、必ずしも希望が叶うわけではありません。

賃借人の債務不履行

家賃を滞納している、騒音や悪臭がひどい、専有部や共用部を規約に則って適切に利用しないといった、借主が義務を果たさない場合も、退去請求の正当事由として認められやすいです。

実際立退き請求の原因の第一位は「家賃滞納」によるものです。

家賃の滞納額や違法の度合いにもよるので、決まりを守らなければ則退去!とはいきませんが、
借主に落ち度がある状況下では貸主の主張の正当性が認められやすくなります。

賃借人の利用状況

賃貸借契約を結んではいるけど、賃借人は老人ホームに入居していて実際には住んでいなかったり、単に物置部屋として借りておりほとんど出入りしていない、ということもあります。

これだけで立退き請求の正当事由にはなりませんが、立ち退きしても困らない人が借りているのなら、貸主からの退去請求が認められやすくなります。

●貸主の事情だけでは決まらない

貸主側の事情が上記でご紹介したような正当事由に該当していたとしても、それだけで半強制的に立退きが発生するかと言われると、必ずしもそうではありません。

借主が借りている目的が居住のためであったり、店舗で営業活動をするためであれば、立退き要請を断る正当性はとても大きくなり、立ち退くことで経済的・精神的な損失が出る場合がほとんどです。

立退き交渉で双方譲らず裁判に発展した場合には、貸主借主双方の事情を考慮して正当性の度合い(割合)を総合的に判断することになります。

そして別記事で解説する「立退き料」とは、貸主と借主との正当性の割合によって、貸主側の正当性の不足分や借主側が被る損失を補完するために支払われるものとされています。

■立退き裁判の判例

立退きが認められた例

・5ヶ月間の一方的な一部賃料の不払いを理由に立退きが認められた例

平成21年の事案

【前提条件】
・料理店を経営する目的で賃借人Bは賃貸人Aから月額約47万円で建物を借りた。
・契約は平成15年から3年更新で、更新料は新賃料の1ヵ月分。
・契約の特約:賃料支払いを2回以上怠ったときは催告なしで契約を解除できる。
・契約当初からたびたびネズミが侵入しており、設備を破損するなど飲食店経営に損害が出ている(借主Bの主張)
・借主Bは契約更新時に更新料を支払わず、更新日以降はAが立退き請求をするまでの5ヶ月間、Bが相当と考える減額した賃料のみを支払っている(Aは承諾していない)

貸主A
貸主A

更新料を支払わないのみならず、5ヶ月間もの間勝手に減額した賃料を支払っている。

信頼関係は既に破壊されており、即座に建物の明け渡し、契約の解除、不足賃料と履行義務遅延による損害賠償金を支払え。

借主B
借主B

物件を借り受けた時からネズミの侵入により収益が阻害されている。

ネズミの侵入を防ぐための改修は貸主が行うべきで、損害を受けているので賃料の減額は当然です。

【判決】

・借主Bの賃料減額請求は正当な理由および手続きに基づくものとは言えず、無催告で契約の解除が有効になる「信頼関係の破壊」行為である。

・ネズミが侵入したとしてもBは飲食店を続けていたことからも、ネズミの侵入が建物の使用収益を妨げたとは言えないので、賃料の減額請求には根拠がない。

・賃貸人が負う義務は、賃借人の使用目的にしたがって建物を使用収益できる状態にして引き渡せば足り、その後のネズミの侵入は賃借人の使用状況に関係して発生するものなので、賃貸人の管理が及ばないことである。

・Bがネズミの侵入を阻止するための改修がAの義務であるとする主張やその具体的処置内容について主張したのは本訴訟後であったことから、それまではBはAに対して建物の改修に関して要求していなかったと認められる。

→Bの対応は一方的な賃料の不払いと見ざるをえず、信頼関係の破壊行為であるためAによる立退き請求を認める。

何かしらの不具合や不満などから賃料の減額を要求する場合、合意もしくは判決が確定するまでは従来の賃料を支払い続ける必要があります。
一方的に減額した賃料を支払っていると、賃料支払いの債務を怠っている債務不履行状態とみなされる恐れがあります。


・緊急輸送用道路沿いの旧耐震建物の解体を理由にした立退き

平成28年の事案

【前提条件】
・建物は昭和49年築の鉄筋コンクリート造で、借主Bは本建物で20年以上営業活動をしている。(他に4店舗展開している)
・貸主Aは東日本大震災後に施行された「緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を推進する条例」によって義務付けられた耐震診断を行ったところ、基準値を大幅に下回ることが判明した。
・Bの本建物での売り上げは全体の3割程度ある。

貸主A
貸主A

補強工事も検討したが、十分な耐震性を実現できない上に費用が高額。

人命の観点からも早急な対応が必要だが、補強工事では多くの筋交い等を入れる関係でデッドスペースが生じ、賃貸面積が減少し採光等も損なわれるため、やむを得ず解体することにした。

立退料として不動産鑑定業者の算出した2,160万円を支払うので立ち退いてほしい。

借主B
借主B

この店舗での売り上げは全体の3割を占めていて、立退きにより全体の営業継続が困難になる。

耐震性が不十分であることは立退きの必要性とは無関係で、かつ補強工事でも十分に対応が可能なはず。

また、立退料は低額になる傾向がある算出方法で計算しており、不十分である。

【判決】

・行われた耐震診断の結果は信用性が高く、補強工事では一時的に安全が保全されるのみなので、高額な費用を要する補強工事を実施することは合理的ではないと判断できる。

・売り上げ規模からもBが本建物を必要とする度合いは高いが、耐震性に問題があることはBの顧客にとっても危険である。

・Bは他にも4店舗を経営しており、Aからは立退料も支払われるため、本建物の立退きによって営業継続ができなくなると認めることはできない。

・本建物近隣でBが営業できる代替物件が存在しないとは認められない。

・立退料については休業補償等を再計算し、3,000万円が妥当。

→Aが3,000万円の立退き料を支払うことで立退きが認められた。


立退きが認められなかった例

・海外居住者の貸主が来日した際に住む家として購入したオーナーチェンジ物件の立退き

令和元年の事案

【前提条件】
・所有者Aが所有者になる以前から居住者Bは前所有者Cとの間で2年更新の普通賃貸借契約を結んでいる。
・Aは外国籍で貿易の仕事をしており、月に1~2度の日本滞在時の住戸として、居住者Bが住んでいる状態でCから買い受けた。
・建物は築約40年の鉄筋コンクリート造で、耐震改修などの補修をする必要は見受けられない。

貸主A
貸主A

私は仕事や休暇で日本滞在中に住む家としてこの物件を購入したため、この物件に住む必要性が高い。

契約更新拒絶の通知は契約満了の半年前に借主に提出している。

物件の明渡しと共に、契約満了から明渡しまでに私が住めなかった分の使用損害金を支払え。

借主B
借主B

Aは私が住んでいることを了承したうえで購入していて、私がここに住む権利は尊重されるべき。

私の居住権を脅かすような行動はすべきではない。

【判決】

・契約更新拒絶の正当事由は、その建物を必要とする事情の他に、建物の現況やこれまでの経緯を含む使用状況や財産上の給付(立退料の支払い)等を考慮した上で判断される。

・BはAが物件を取得する以前から賃貸借契約を締結して居住している。

・建物は使用に十分で退去を要する大規模な修繕等が必要とは言えない。

→Aが建物を必要とする事情がBの事情を上回るとは言えず、Aの主張には正当性が認められない。

海外では不動産の所有者(賃貸人)の立場が賃借人より強いことも多く、もしかすると所有者Aは立退きが簡単にできると思って購入した可能性もあります。

不動産仲介業者は、日本と海外の常識や慣習の違いを理解したうえで、日本では居住権の保護が手厚く簡単には立退きができないことを十分に説明し、認識の違いが出ないように慎重に取引する必要があります。


・築57年の木造アパートの老朽化を理由とした立退き

令和元年の事案

【前提条件】
・賃貸人A所有の築57年の木造アパートには賃借人Bら複数人が住んでいる。
・現家賃は月額約9.2万円で2年更新の普通賃貸借契約。
・周辺の家賃相場は8万円~10万円程度。
・Aは立退きに際して840万円の立退料を払い、代替物件を提供する用意もある。
・居住者の中には肺気腫を患っている高齢者がいる。

貸主A
貸主A

耐用年数の22年を優に超えた木造アパートでは首都直下型地震が発生した際に倒壊を免れず、早急な対応が必要。

耐震補強の費用が著しく高額なため、建替える方が合理的。

立退料を支払い、代替物件を提供する。

疾患のある居住者は現在も喫煙しており、出かけるなどの日常生活を問題なく送っており、転居をしても問題がない。

借主Bら
借主Bら

建物の劣化は否定できないが、東日本大震災でも建物にはなんら影響が出なかった。

一級建築士による検査では、早急な耐震改修工事の必要はなく、費用も甚大ではない。

疾患のある高齢者は過去に心臓の手術も受けており、引越しに伴う肉体的・精神的負担により、取り返しのつかない事態に陥る可能性がある。

【判決】

・旧耐震基準の建物は国内に多数あり、その全てが直ちに建て替える必要があるとは言えない。

・築57年の木造建物とはいえ、基礎は現在も一般的に使用されている鉄筋コンクリート造の布基礎で、建物の構造も近年の基準に準じている可能性が高く、シロアリ等の被害も見受けられず、東日本大震災による損傷もないため相応の地震には耐えられると考えられる。

・早急な耐震改修工事が必要とは言えないとする意見は、専門家である一級建築士のものである。

・疾患のある高齢者は周囲の反対をよそに現在でも喫煙をやめていないが、医師からは風邪でも生命にかかわると注意喚起がされており、平均寿命に相応する老齢でもあることから、住み慣れた環境を離れることが生命に関わる事態を引き起こす可能性がある。

→立退料の大小を検討するまでもなく、建物の老朽化を理由とする立退きには合理性がない。

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